内なる乾癬性疾患:糖尿病

今年、インスリンの発見から100年を記念して、International Federation of Psoriasis Association(IFPA)では「内なる乾癬性疾患:糖尿病」というレポートを公開しました。このレポートは、乾癬性疾患と糖尿病との関連、乾癬性疾患のある人々における糖尿病の予防とケア、さらにそのための最善の方法に関して、科学的なエビデンスをまとめたものです。また、糖尿病チェックリストも公開されています。レポートとチェックリストは下記ウェブサイト(英語のページです)からご覧いただけます:

https://ifpa-pso.com/our-actions/advocacy/psodiabetes/

チェックリストは日本語版がリリースされていますが、レポートは英語版とスペイン語版しかありませんので、レポートの内容を日本語で簡単に要約します:

乾癬性疾患
乾癬と乾癬性関節炎は、WHOの国際疾病分類ではそれぞれ別の疾患となっていますが、乾癬のある人の約30%が乾癬性関節炎を発症することや、両疾患とも他の併存疾患を発症するリスクが高く、また、心の健康に関する大きな疾病負担と関連していることから、互いに関係している疾患であり、両疾患の疾病負担を包括するために「乾癬性疾患」という言い方が提案されています。

糖尿病
糖尿病は、体がインスリンを作る能力、あるいは、インスリンを本来利用すべき方法で利用する能力を失った状態にある慢性疾患です。インスリンは膵臓で作られるホルモンで、血液中の糖をエネルギー源として細胞へ移送するのを助けます。体内でインスリンが作られないか、または利用できなくなると、過剰な糖が血液中に残り、その結果として起こる高血糖は心臓、目、腎臓、神経系など多くの臓器に損傷を与えます。糖尿病には、インスリンが作られなくなるⅠ型糖尿病、インスリンの働きが悪くなるⅡ型糖尿病、周産期に起こる妊娠糖尿病があります。成人における糖尿病の約90%はⅡ型糖尿病です。

乾癬性疾患とⅡ型糖尿病との関連
多くの研究によって乾癬性疾患のある人はⅡ型糖尿病の有病率が高いことが示されています。もともと肥満など糖尿病と関係する体の状態のない人でも、乾癬性疾患のある人の糖尿病の有病率は高いです。別の研究では、乾癬性疾患のある人はそうでない人の2倍糖尿病を発症しやすく、また、糖尿病を併存する人は乾癬の重症度も高い傾向があることが示されています。 乾癬性疾患と糖尿病との関連は、遺伝学的にある程度説明はできるものの、両疾患の複雑な関係を説明するには必ずしも十分ではありません。また、まだ完全には解明されてはいませんが、炎症も乾癬性疾患のある人の糖尿病リスクを説明するもう一つの因子で、乾癬で作られるある炎症性物質が糖尿病を発症しやすくしている可能性もあります。

乾癬性疾患と糖尿病への対策
糖尿病を早期に診断し、適切に治療すれば、健康寿命を延ばすことができます。また、多くの糖尿病の合併症は予防ができます。乾癬性疾患のある人は糖尿病の発症リスクが高いので、定期的な検査と、糖尿病およびその合併症予防のためのカウンセリングが必要です。アメリカやヨーロッパのガイドラインでは、糖尿病の定期的な検査が推奨され、さらに乾癬の重症度が高い人や、糖代謝に影響を及ぼす薬剤を使っている人には、より頻回な検査が推奨されています。糖尿病の原因はさまざまで、遺伝子や年齢による因子は変えようがありませんが、肥満や過体重、運動不足、喫煙などの因子には生活様式を変えることで対処することができます。糖尿病の原因となっているこれらの因子のいくつかは、乾癬のある人にもよく見られ、乾癬を悪化させる原因にもなっています。したがって、これらの危険因子への対策は、乾癬をよくするとともに、糖尿病の予防もできるという二重のメリットがあります。

乾癬性疾患のある人のための糖尿病予防とケアに関する最善の方法
1. 乾癬性疾患のある人に糖尿病予防のための減量や禁煙などの生活様式への変更について周知するとともに、それらを実行するためのサポートを行う。
2. 乾癬性疾患のある人に対して定期的な糖尿病の検査を行う。
3. 糖尿病など、乾癬性疾患のある人によく見られる併存疾患についての情報提供を行う。
4. 特にプライマリケアにおける医療従事者(≒かかりつけ医)の知識やスキルを高める。
5. コロナ禍においても乾癬とその併存疾患のケアを継続させる。

なお、この「内なる乾癬性疾患」はシリーズ化され、今後、他の併存疾患についてもレポートが公開される予定です。